いくみち

一週間がたちました。
いつも一週間があっという間に過ぎてしまうことを嘆いていたのに、今回に限ってはまだ一週間か、と思った。もっとずっと長い時間が経ったように思える。「こんにちは」の代わりに「大丈夫だった?」と言って、「さようなら」の代わりに「気をつけて」という一週間。
人間は慣れる。どんなことにも。

状態は変わっていないどころかどんどん悲惨な爪あとが明らかになっていって、ますます大変になってゆく被災地で今も命をかけて頑張っている人たちのことを考えるとぐっとなります。せっかく助かった人も孤立して食べものもなくて限界に達している。それでも変わらず祈ることと応援すること、節電くらいしか出来ることがなくて、体の中にもやっとしたものが沈殿していきます。

安全なところにいる人にとっては、地震からずっと「いつもどおり」でいることが一番難しかった。みんなそうするしかないから、と無理やり「いつもどおり」になろうとして、一週間でそれがちょっとずつ実現して、少しは落ち着いてきて、外食もするようになって、テレビ番組も元通りになってきた。受け止めきれないものに対して感度を鈍らせることで人はなんとかやっていける。どうでもよくなるわけではない。ただ、それは心を守る装置なんだなあと改めて思います。震えながらテレビを食い入るように見つめていた日から、一週間で「ACの広告飽きた」なんて言えるようになるなんて思ってもみませんでした。たった一週間で。

でもそれは応急処置みたいなもので、実際はそんな簡単にはいかない。出来ることはした、普通でいよう、と頭では思っていても、心がちぐはぐになってる部分がまだまだたくさんあって。一見「いつもどおり」が出来ている感じの時が、一番バランスが危ういことになっている気がします。どこかがぽっかりなくなっているのに無理につなぎ合わせてるから、ズレがじわじわ出てきたり、体に不調が出たりしてる。ふとした瞬間に暗い穴にすいこまれそうになるのはきっとそのせい。

この一週間私も何度も言った言葉だし、人が言うのも何度も聞いた言葉。
「こんなときだから」「また落ち着いたら」「いろいろ終わったら」
「一段落したら」。

でも、どうなったら、一段落なんだろう?だんだんわかってきた。全てが元通りになることはない。落ち着くというのは多分「こんなとき」がずっと続いて「いつもどおり」になっていくことを言うんだ。

「こんなとき」はおわらない。
「ここをはじまり」にするしかない。

表面的にはこの地震・原発報道も、いつか、終わる。街だって人だって、少しずつ復興に向かう。でも失われたもの、浮き彫りになったもの、変化や気づき、ここまで大きく軌道修正した日本の意識はやっぱり、もう戻らない。人間は個人的な体験ももちろんあるけれど、こういう国規模で起きる大きな精神的シフトを通じて、何度も意識の更新を繰り返してきたんだと思う。戦争も、革命も、災害も、9.11も。意識は半ば強制的に上書き保存されて、どんどんそのあり方を変えていくものなのかもしれないなあ、と。

とにかく、無理するのはやめよう。自然に、成り行きに任せて、「いつもどおり」が難しかったら、そうしなくてもいいことにしよう。矛盾が一番少ないポイントをどうにか探して、ゆっくり、新しい「いつもどおり」を受け入れられる時を待とう。
私は幸運なことに、自分の人生でこれまでここまで大きな災害は体験したことがありませんでした。そして今も被災者ではない。人は自分に関係あることじゃないと、結局うまく考えられないものです。非被災者は、被災者の気持ちは分からない。
でもこれから、節電や寄付以外にできることが増えるとしたら、この「現在進行形の感じ」を覚えていることだと思います。
いまを「こんなとき」と思えているときの気持ちを。まだ情報がちゃんとなくてテレビで怖い映像ばかり流れていて、もうダメかもと本気で思って、その時に何を思ったかを。理屈なしに助け合って、思いやりあって、すべきことを淡々として、研ぎ澄まされてた本能の部分を。

そしてその思いを助けが必要な部分に継続的に向けていけるようになりたいなと思うのです。慣れや忘却はセーフティネットだけど、残酷でもあるから。「こんなとき」が日常になって、あまりみんなそのことを考えなくなる時期がきっと、一番力が必要とされるとき。復興には長い時間がかかるし、被災地を日本中がこれからどれだけ長期にわたって今と同じだけの思いで自分ごととして考えていけるかに、かかってる気がする。

18日の夜の原発に放水した消防隊員の人たちの記者会見を見ていたら、涙がとまらなくなくなりました。家族ともう会えないかもしれないと思いながら決死の覚悟で働く人たち、それを送り出す家族の気持ち。私にはそんなこと出来るか分からない。

日本中が苦しい。でも、これまでにない強さも感じるとき。
まだまだ、信じられるものがたくさんある。
希望も、絶望と同じくらいきっとある。

苦しむのも、悲しむのも、それに耐えて乗り越えるのも、
生きてるからできることだから。生きることが、できること。

今のこの感じを、忘れないで。

今日はスーパームーン。地球と月がもっとも近づいて一番小さいときより14%も大きく、30%も明るく見える日。
まあるく、白い、光が、暗闇を隅々まで照らしてくれますように。
moon