img20050520.jpg
彼女はその小さな体の中に 海を飼っているため
耳を傾ければ
歩くたびに ザザーン ザザーーーンンン 
微笑む たびに ちゃぷん ちゃぷん と 音が聴こえてくる

僕は彼女の腹に耳をあてて 波の鼓動を聴き
彼女の長い髪の中で 泳ぎまわる

たまに口から迷い魚が飛び出したり
体の中に嵐がきて 大変なことになったりする

彼女の目を覗き込むと 無数のあぶくがきらめき
その目からこぼれる涙は 貝殻になる
抱きしめるとひんやりと冷たく そして限りなくあたたかく

彼女と僕は手をつなぎ
海をみたことがない人々が住む国を 一緒に旅する
彼女はいつでも どんなときでも 変わらず うねり ねり ねり
その体は無限の鼓動を刻んでいる

いつしか 僕だけが年をとり 旅は終るだろうけれど
その時は 体が動かなくなる前に 彼女の中で溺れられればいい

そうして彼女の中の白い貝殻のひとつにでも なれればいい

けれど今はまだ
彼女にそのことを伝えるのはやめておこう