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本屋さんをのぞいたら栗本薫さんの「グインサーガ」の新刊、「謎の聖都」が出ていて、8月に出るとは知っていたけれど一瞬ギクッとしてしまった。なぜならば作者の栗本さんは今年5月、この長い物語を完結させることなく他界されてしまったからです。ショックすぎてしばし立ち直れなかった出来事。

作者の方が亡くなっているのに、その新刊が本屋さんに並ぶ不思議。最近の巻はもうあとがきが「闘病日記」みたいになっていたのですが、この前の新刊が出た時はまだご存命だったのです。

買ったらいつも一気に読んでいたのだけど、今回に限ってはなかなか読み始められない。あと何冊出るのか分からないけれどもうあとはストックとして残っている原稿が細々と出てゆくばかりで、それが尽きたらもうおしまい、というのが分かってるからだと思う。どんな言葉で、どんな状態で、この世界が永遠に止まってしまうのか、って考えると悲しくてなんか手が止まってしまう。
最初にグインサーガを読み始めたのは17歳の時。アラスカに留学中の私に、
両親が送ってきてくれたのが始まりでした。日本語に飢えていたので、むさぼるようにみっちりと何回も読みました。そこから気づけば波に乗るように、10年以上も読み続けてきた小説。もう長らく読み続けている私の中には「体内グイン時計」が出来ていて、だいたいそろそろ出るかな~と思って本屋さんに行くとちゃんと新刊が並んでたりして。
グインサーガという物語はあまりに長くて一言でまとめることはとても出来ないけれど、私にとってはこの10年間一緒に、中原というもうひとつの世界の歴史を「のぞいて」きたような感じです。1000人を超える登場人物と、複雑に張り巡らされつつちゃんと解決する鬼のような伏線と、一体この作者の頭の中はどんな風になっているんだろう、書き始めたときにどこまで考えていたんだろうといつも思う。なおかつ驚くべきはグインの1巻を書いたときに栗本さんは26歳だったということ・・!ひえーです。

とはいえ、グインサーガがものすごく完璧で非の打ち所のない物語だったというと、そんなことでもない気がする。そもそも100巻で終わるって1巻で断言していたのに、128巻になっても全然終わる気配もないし(笑)矛盾や間違いもあるし、本筋からの脱線も多いし、いったん物語が一段落してからの最近は物語の進行のスピードがすごく遅くて、ディテールは異常に細かく描写されてるんだけど、10巻出ても全然話が進んでない、みたいな趣味の世界の感じになっていて、病気のこともあって読者はみんなひやひやしながら見守っていた。

それでもそんな矛盾を孕んだところや完璧でないところこそが、この話を神様じゃない生身の人間が作り出した、愛せるものにしていたと私は思う。
その話にずっとついてきて、毎回楽しみにドキドキしながら読む人が世界中に山のようにいて、しかもそれが30年!という私が生まれたときから今までずっと続いている、というこの事実が信じられないくらいの偉業だと思う。

それが完結することのないまま凍結されてしまうことが、何より悲しい・・。最終巻「豹頭王の花嫁」(物語のかなり初期の方で作者は最終巻のタイトルを明らかにしてたのです)が出ることがないまま終わってしまう。栗本さんは「グインサーガという世界を私はチャネリングしているだけ。私がいなくなっても世界は続いていく」みたいなことを書いていたのですが、その世界をチャネリング出来るのが栗本さんしかいないんだから、世界だけが存在し続けても仕方がないではないか!あとどれくらいのぞいていられるのか分からないけれど、私は1ファンとしてこの世界の終わりを見届けようと思います。

そして改めて栗本さんのご冥福をお祈りいたします。
壮大なファンタジーと、ページをめくる興奮を長い間、ありがとうございました。

(あっちの世界で続きを書いて、こちらに届けてくれないかなあ。
そのくらい出来そうな人だ・・。
でもやっぱりゆっくり休んで欲しいな。)