8月31日。
今年の夏はなんだか奇妙だった。
いろいろなことがあったはずなのに、思い出そうとすると
指の間からつるりと逃げて輪郭が曖昧になる。
冬眠中のクマみたいになっていた夏だった。
私の本体は巻貝の奥の奥の方までひっこんで
貝殻レイヤーの向こうに透ける外をぼんやりと眺めているだけ。
輪郭は曖昧ににじんで不透明度70%くらい。
感度を下げて、新陳代謝を下げて、食べ物もあまり必要としない。
外はひたすらに暑いし、怖いこともあるし
いてもいなくても同じ、やってもやらなくても
何ひとつ変わらないように思えて、じっと、まるまっていた。
時間と感情の起伏は振り返ると全て凪いで
平板な白昼夢みたいな光の中を泳いできたように思う。
逃げていたわけではないけれど、
そうする必要がある時期だった。
どんな時期だって必要があるからやってくる。
と、やっぱり、やっぱり信じたい。
夏にはいつだって終わりしかない。
終わらない宿題を現実感なく見つめていたあの頃から、ずっと。
今年の夏だけが特別に思えるけれど、
夏って毎年そんなもんだ。
そろそろ起きなくちゃ。
次に目覚ましがなったらもうスヌーズボタンは押さないのだ。